真っ暗闇が好き。
真っ暗闇が怖い。
わざわざすべての明かりを消して真っ暗闇に沈むようにしている時がある。
かと思えば、本当に真っ暗闇で息ができないような気がして恐怖に襲われる時もある。
今日見た映画は「炭鉱(やま)に生きる」萩原吉弘監督。
カンテラの明かりが消えてしまったときの言いようのない怖さについて少年時代の炭鉱での経験を語っている人がいた。
凝らしても凝らしても目が慣れない真っ暗闇では、右も左も上も下もなくなり、出口のわからない永遠に閉じ込められてしまうのではないかというような恐怖におののく瞬間がある。
ましてや炭鉱ではすぐそこに死がある事故が常に起こる。
過酷な労働だけではない死と隣り合わせの労働。
その中で一番印象に残ったのは、男の人達が掘り出した石炭を運び出す女の人達の労働だ。
そういえば鋸山に登った時にも、切り出した重い石を山から降ろしたのは女の人達で、降ろす時に事故に巻き込まれたのが印象に残ったのだが、二百キロにもなるものを狭い坑道で押して歩き、一歩でも踏み間違えばその重さに自分が轢かれてしまう大事故。
自分だけではなく、他の人も巻き込まれてしまう。
そんな日常茶飯事。
運命共同体の中で互いを思いやる人情。
その過酷さと、それゆえの人の暖かさなども感じた映画だったが、見終わった後で、炭鉱の展示の中に衝撃的な文章を見つけた。
炭鉱の記録文学作家の上野英信の展示だったのだが、
彼の書いたものの中から引用されているある女坑夫の呟き。
生まれ変わったら何になりたいかという他愛のないお喋りの問いかけに、「誰かが重い荷ば曳かんとならんとなら、あたしゃ、やっぱり、馬になって荷ば曳きたかよ」
え?
と思った。
映画の中では馬の描写もあった。
馬一頭に3トンもの石炭をひかせた。
真っ暗闇の中、炭鉱からやっと外に出られた時に、馬がいつまでもいつまでもいなないていたのを、切なく見ていた少年の記憶。
生きて出てこられたという馬の悦び。
それを見て切なくて涙が出たという当時少年だった人の話。
馬は過酷な労働に駆り出された存在。
本来は自由な存在なのに、人に使われて酷使される。
一方炭鉱で働く女性は生活のために自ら石炭を運ぶ。
しかしそうしなければならない理由がある。
生まれ変われるのなら、その境遇から脱したいというのが自然な想いではないのか。
というのが覆された。
誰かがやらないといけない事なら自分がまたやる。
過酷な労働と死につながる事故だけではない。
炭鉱で働く人達への差別。
権力や資本が仕組んだ差別政策の中で差別にさらされ続けた人が「この世のどこかに差別があり、差別の重荷にあえぐ人がいるかぎり、自分もやはり生まれかわってでもまたその差別の重荷を引きつづけなければならない」
思わずその文章の前で立ちすくんでしまった。
何度も何度も読み返す。
間違いではなく、生まれ変わったらまたこの重荷を背負いたい。
と言っているのだ。
美しい心とはこのような強い心なのだろう。
苦しい生活をしている人、差別を受けている人、本当に弱い人達とは誰の事なのだろうか。
本当に傷ついている人達とは誰の事なのだろうか。
人を傷つける人というのが最も傷ついている人ではないのか。
今社会に起こっている様々なことが頭をよぎる。
最近も、維新の党の長谷川さんが差別されている人達に対して投げつけた言葉。
その言葉は果たして刃となって、この女坑夫を斬りつけただろうか?
きっとかすりもせずにその刃はいつか長谷川さん自身に戻るだけだろう。
今日この言葉に出会えたお陰でそう思える。
つい先日の川崎登戸で起こってしまった悲しい殺傷事件。
今朝幼稚園で馬頭琴の演奏をした。
子供たちは屈託無く沢山笑い、音楽を楽しんだ。
園長先生が、終わった後片付けをしている私達に言った。
今日私はとても気持ちがブルーだったの。
音楽を聴くうちにとても元気になった。
音楽っていいわね。
私達は回復することができる。
回復する術をもち、それを知っている。
殺傷事件を起こした犯人は自ら死んでしまった。
彼は沢山の人を傷つけたが、本当に弱く、最も傷つけられた人とは誰だったのか。
この世の中で一番弱い人とはどんな存在なのか。
一番傷ついている人とは誰の事なのか。
それを考えさせられた1日だった。
萩原吉弘監督との思い出がある。
だいぶ前の話。
監督は私の高校時代に在学していた山形の学校を訪ねてこられた。映画「あらかわ」の撮影中で、当時私はダム問題に関心を持っていて、社会の授業の学習の中で村の人たちに聞いて回った話を元に書いた論文をどこかの新聞社が記事にしたのを読んで私に会いたいという事だった。
私はちょうどロバに乗って村を散歩していた。あれが君だったんだね。という事で色々話をして、後に何度か手紙のやり取りもした。
あなたは何か文化的な表現をするのに向いていると思うよ。と言われた事がずっと頭にあった。今こうして音楽をやっていて、久しぶりに便りをしたところ、監督は亡くなっていた。代わりに返事をくれたシグマの佐々木さんから今回の映画の案内をいただいた。
誰かの想い。それを知る事で誰かに伝えたい。音楽もまた同じ。それを再び思い直した日になった。
馬頭琴コンサート | |
日時 |
2019年6月1日(土) 開場11:00~12:30 |
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会場 |
仙川Kick Back Cafe 調布市若葉町2-11-1 |
出演 |
馬頭琴 美炎 |
チケット |
¥2000(カレー、ドリンク、内モンゴル砂漠緑化への寄付含む) |
お問い合わせ |
info@kickbackcafe.jp 03-5384-1577 KICK BACK CAFE |
馬頭琴コンサート | |
日時 |
2019年6月8日(土) 開場17:30/開演18:00 |
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会場 |
C’est la vie. セラヴィ 千葉県船橋市飯山満町2-691-10 |
出演 |
馬頭琴 美炎 キーボード 竹井美子 ドラム・パーカッション 前田仁 |
チケット |
¥3500(1ドリンク込み) |
お問い合わせ |
C’est la vie. セラヴィ hasamashop.cestlavie@gmail.com 080-1343-0965 |
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撮影 Yuki Iwasawa
天窓がガタガタ音を立てる音で目覚めた。
ダブリンを朝出てから3日目の朝。
白い空は寒そうだ。
雨が降っている。
明日はダブリンに戻る。
だから今日スライゴーに南下して、着いたら女王の山に登りたい。
残念な気持ちにならない。なぜかまたちょうど良く晴れるんだろうくらいにどこか思ってる。
朝ごはんをたっぷり食べて出発。
レンタカーの旅はスケジュールを本当にその日その時の流れで自由にできるのが魅力だ。
ユキさんは車の教官をしていたことがある。
オートマなのに、ゆるゆると坂道の多いアイルランドの田舎道で巧みにレバーシフトしていた。
アイルランドはイギリス同様、日本と同じ左車線でキロメートルの標識なので運転しやすい。
そして交差点はほぼラウンドアバウト。
渦巻きのように十字路がまわっていて、そこに左から合流して流れに乗り、出たい道で出る。
三時間の行程で運転中ほぼノンストップ。
ストレスがほんと少ない。
田舎道はどこも100キロで飛ばせる。
町に入ってくると50キロ制限になり、途端に前の車がスピードを落としたなと思うと、50キロ制限エリアに入ったということだ。
町を抜けるとまた途端に100キロで飛ばす。
不思議だったのは、日本の田舎だと現地の年配の方の運転でゆっくりした車がいて列になったりするのが一度もなかった。
みんなきっちり100キロで飛ばす。
1時間も走ると晴れてきた。
思わず二人で笑う。
南下しながら、ベンブルベンの山が見えてくる。
男山。
対して今日登るのが女山の女王の山と呼ばれているノックナリー山。
夕方にはやはり天気が崩れるらしいので、とりあえず雨に降られずに女王の山には登れそうだ。
まずは宿のあるストランドヒル海岸へ。
ナオコさんオススメのカフェへ。
アイルランドの伝統パン、ソーダブレッドがある。
私は今日のスープ(ソーダブレッド付き)と自家製レモネードソーダ。
ユキさんはフィッシュ&チップス。
今日のスープは濃くのある優しい味のオニオンスープ。
フィッシュ&チップスはイギリスで食べたのよりかなり美味しかった。
毎度ケーキが美味しそうなのに、食事でお腹いっぱいになるので、この旅を通してケーキまで辿り着けなかった。
女王の山は海辺にあり、このストランドヒルから見上げればある。
登山道はちょうど裏手のようだ。
ダブリンの夜、パブで飲んだピーターはこの女王の山のマラソン大会で上まで走ったと言っていた。
山の中腹まで車で行けるらしい。
エリガル山が思いのほかきつかったので、今日は全くのハイキング気分。
ただ、聞いていたように中腹まで行けるのではなく、裾野の中腹といったほうがいいかな。
やっぱり、最後は汗だく。
山頂には先史時代の古墳がある。
伝説では甲冑を着たままのメイヴ女王が眠っているという。
できることならこの山頂で小一時間くらいぼーっとしていたかったのだが、少し雲が多くなってきて、汗が引いて風が冷たく感じる。
この後は妖精の谷にいって写真撮ろうと思っていたので、雨が降らないようにと思いながら山を降りる。
地元の人もあまり知らない知る人ぞ知る妖精の谷。
白い井戸が目印。
もちろん看板もなく、駐車場もなく、道は細く、行き過ぎてから、今白い井戸があった!
バックしてなんとか車を停め、えー!
ここ?
ここから入って谷があるの??
女王の山の裾野部分ですぐ先には海がある。
たしかに小さな森のようなものは見えるが、とても大きな谷があるようには見えない。
まさにトトロの小道。
その小道を行くと、明るくかわいい森の小さなトンネルが続き、充分素敵なので、ユキさんがしきりに、ここもいいよ!
ここも素敵な写真が撮れそう!
と目を輝かせる。
私はこのもっと先にきっともっと谷らしいのがあるんだろうと、ずんずん進む。
トンネルの小道から少し雑木林になって、道がなくなり、それでも木の下をくぐって抜けると、本当に谷のホールがあった。
15メートルほどの高さの岩壁が両側にそそりたち、長い長い蔦がカーテンのように垂れ下がっている。
そのホールの合間には大きな木が高く並んでいて、よく見ると岩壁は石積みのようにブロックになっているので、城の城壁か?と思ってしまう。
逆にこれをこのように積み上げるのは無理だろうと思う。
空は晴れている。
でも深い森のようにここは岩壁と大きな木陰で覆われている。
更にホールの奥まで行くと、大きな木が倒れていた。
裸足になって着替えて木に登る。
ユキさんと二人でここは?ここは?といいながら撮った写真。
その中から景色が分かるものをいくつかご紹介。
それできっとこの谷の全体像がおぼろげながら分かるかもしれない。
写真をる撮り終えた頃に背の高いリュックを背負った男性が二人やってきた。
地質学者らしく、この岩壁の谷は本当にすごく貴重な場所なんだと説明して、更に谷の奥に入っていった。
地元の人も知らないというのがすごいな。
そのくらい隠れた場所にあるのは間違いない。
ここのあたりにあるだろうと、知っていても上から見て、全く想像つかなかったのだから。
大満足で妖精の谷を出る。
そこからノックナリー山をぐるりと一回りする形で宿へ。
宿の隣にシーフードレストランがあるではないか!
オイスターって書いてある!
私の希望の生牡蠣とユキさん希望のムール貝にありつけるかも!
部屋で荷物を解いてからゆっくりと出向くと店は満杯。
ギリギリ入れて席に着く。
生牡蠣が六つで11ユーロ。
ムール貝は幾らか忘れたが山盛り。
ピーターのアドバイスに従ってギネスのハーフパイントを。
それをバケットと共に食べ尽くし、生牡蠣もう一皿。
もう幸せ。
お店のお姉さんが、え?それだけ?というリアクションだった。笑
鮭のムニエルも迷いに迷ったが、もう腹いっぱいでした。
旅に出ると胃袋もう一つ欲しいと毎度思う。
隣の宿にそのまま帰る気にならず、夕陽散歩。
宿はキッチンがついており、ここに後2泊ぐらいできたら最高だったなと思う。
いや、すぐ隣の生牡蠣を食べに通ってしまうだろうな。
ユキさんがシャワーを浴びてる間に、この窓辺に座り込み、馬が草を食んでいるシルエットを眺めていた。
この旅を思い出しているとメロディーが浮かんできた。
虹と共にいた崖の上、エリガル山のてっぺんから見た谷の風景。
つい昨日、一昨日の事なのにもうだいぶ前のような気がする。
歌いながらそんな風景を思い浮かべていた。
続く