2019
映画監督の纐纈あやさんと出会ったのは3年前くらい。
アースマンシップの岡田さんの紹介で、すごく面白いの!会わせたい!と前から言っていた。
あやさんの方はやはり岡田さんから、棚田コンサートすごくいいから絶対行ってみて。
と言われていた。
あやさんとカメラマンの石井和彦さん夫妻がそうして棚田コンサートに来てくれたのは、一昨年のよりによって初雨の開催となった棚田コンサートだった。
演奏しはじめた途端に降り出した雨。
皆さん傘をさしてじっと聞き入っている。
ともすると申し訳なさに心が占領されそうになるのを、そんな気持ちで弾くわけにいかないと集中する繰り返しの中だった。
あやさんからの感想は、自然の中に響く馬頭琴はなぜあんなに感動するのだろう。
雨音と共に聴く馬頭琴の音色は格別だった。
という、雨音という効果も何かしら音楽会の中で響くものがあるんだという意外なものだった。
先月に取材を受けに行った棚田は小雨が降っていた。
なんとも幻想的で、確かに悪くないと思えた。
まあつまり、この山の棚田はそれくらい異空間、魔法が働くかのような場所なのだ。
風光明美な棚田は棚田百選があるように全国あちこちにあるであろう。
私もいくつか知っているし、海が望めたり、それこそ階段上に斜面で広がる棚田の迫力や、何とも言えない景色はそこに立つだけで感動する。
それとはまたどこか違うこの山の棚田はまず、規模がとても小さい。
棚田の持ち主茂さんの本当にプライベートな空間で、どうしてこの山の中のこの小さな谷底によく残っていたなと色んな意味で不思議に思う。
山の入り口からして、プライベート感満載で、村の人も数十年、同じ地区に暮らしていて通った事がないような山道なのだ。
茂さんと、棚田を開墾した茂さんのお祖父さんだけが、通ってきたような道。
谷底の小さな棚田から見上げた空はやっぱり切り取られた小さな丸いここだけの空だ。
でもここが特別なのは、その棚田の真ん中に石舞台があること。
そしてそこで音を出すと、天然の音楽ホールになっていて、音が山の斜面を伝って上まで届く。
ここでしか聞けない美しい音なのだ。
弾いていると突然生き物たちが反応する。
風が反応する。
光が反応する。
みたこともない自然の演出がくりひろげられる天然の音楽ホール。
このまま死んでもいい。って感想がアンケートででるくらい、魔法がかかる異空間。
これが異空間なのか、どこにでもある里山の一部なのか。
茂さんは毎年誰も訪れることのないこの棚田で一人米作りをしてきた。
そして、ふと空を見上げて、こんな素晴らしい景色を眺められるのはおれ一人なんだなーと、味わっていたという。
そこに、この棚田の魅力に気づいて通うようになった、お隣に移住してきたヒロクラフトの廣田さん家族。
その縁でここに一年に一回。
お米の収穫の後にこの音楽会が開かれるようになり、茂さんの米作りの一年はこのコンサートが終わってやっと終わる。
いつも山の上で腕組みしながら立ち、コンサート全体を見ている茂さんの姿。
ここにこんなに人が沢山いるのが不思議でしょうがない。
みんなが喜んでくれるのが嬉しい。
この棚田のある梅平地区の廣田さんが名付けた里守人の方々もまた、このコンサートを大切に想い、日頃から地域の整備を気にかけている。
コンサート当日もそれぞれ、駐車場係りなどをこなしてくれて、お客さんがどんな満足な顔で帰ったか、なんと言って感動してくれたかを、私にとても嬉しそうに報告してくれる。
そしてその地域の人たちの暖かさを感じたお客さん達がアンケートでそれを伝えてくれる。
私の見えないところで沢山の瞬間がこのコンサートを作っている事が実感できる。
そんなことの全部が映像として、ドキュメンタリー映像作品として残したい。
ここ数年ずっと思い描いていた。
このコンサートに来たいけれど
来ることができない人達もいる。
お客さんもコンサートは見れるけど、その舞台裏は知らない。
そんな期待にも応えたい。
でも私の夢は妄想のままだった。
今年の夏、ふとFacebookで廣田さんが、もう一つの美術館という棚田からすぐの木造校舎を美術館にしている素敵な美術館で纐纈あやさんの「ある精肉店のはなし」の上映会と監督のトークショーがある。
と、いう案内をみて、行かなきゃ!!
となる。
廣田さんに言うと、それなら監督と同じ宿を予約しておきますか?という事でお願いした。
上映後にあやさんと宿で映画のこと、監督になった馴れ初めなど、部屋飲みしながら語り明かし、次の日の早朝にはあやさんと棚田へ行き、温泉で棚田の魅力を語り、気づいたら口から、棚田のドキュメンタリー映像を撮ってくれませんか?
と聞いていた。
行かなきゃ!
と思った時には、まだ頼んでみようなどとは思っていなかった。
映画も見ているし、あやさんにも何度か会っているのに、とにかく行かなきゃいけないと思った。
しかし棚田へ向かう車の中で、そうか、あやさに頼めたらすごくいいなと思い、なぜ自分はそんな事も考えずに行かなきゃ!!と決めたのか、相変わらず気づいたら走ってる自分の性格に可笑しくなる。
廣田さんはと言えば、実はそうなることを何処かで予感して、監督と同じ宿を予約してくれていた。
しかも面白い事は、次の日監督が帰った後で、夕方からこの梅平地区の寄り合いがある。
今回参加できるのが、棚田コンサートのコアメンバーのみ。
ということで、それは私も絶対参加しなければと、あやさんから言われていた通り、このコアな里守人の映像製作の賛同を得られなければこの話は成り立たない。
彼らが重要な登場人物でもあるからだ。
用意されていたとしか思えないこの流れに一人で興奮しながら、いい感じに皆さん酔ってきたところで、話を切り出す。
昨日、映画を見に来た茂さんは、待って、でも俺はあの映画の精肉店の人達のように、何も特別な話は何にもないよ。
あの作品はさ、社会問題なんかもちゃんと絡んでいて、ドキュメンタリーとして深みのあるものになっているけど、俺は取り上げられるような事は何にもないから、と言い出すので、廣田さんと、いいのそれで。
そんな事は誰も期待してなからと、なだめる。(?!)
梅平地区の代表のようなしげはるさんが、とにかく一番喜んでくれて、この梅平という地区がなんらかの形で残ってくれるなら、そんな有難い話はないと、何度も何度も話していた。
梅平地区、主催の廣田さん家族、棚田コンサート出演者、第一回目から訪れてくれているスタッフやお客さん。
いつかこのコンサートに行きたいなと思っていてくれる人、みんなの想いが詰まった作品になる。
私ができる事は本当に限られていて、その小さな範囲の事を、やっぱりやるしかない。
ただ、この映像作品を誰よりも見たいし、沢山の人に見てもらいたい。
それだけは確かで、この作品を見てみたいと思う方がいたら、ぜひ応援をよろしくお願いします。
この記事へのコメント
一口、いきます!
ありがとうございますー!!!
ありがとうございます!!!!