馬頭琴奏者 / 美炎 miho 公式サイト
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 ナマモノ- 2016/07/24 -

Category : BLOG

アザラシはまた今度狩ることにして、この前のお話。

呼ばれて初めて訪れる場所。

演奏というのはただ演奏するだけではなく、その場の雰囲気やその日の天気、集まるお客さん、主催者、いろんな要素が総合的に作用しあって生まれる時間。

おっと、アラスカでの旅の話にもつながりますが、ちょっとした探検、冒険旅行みたいのを好きでやっていた時に、きちんとした計画。

それから色々な予測。

そしてあとは運を天に任せるみたいなちょっとした勇気。

予測や計画がとても大事ですが、それはもうあって当たり前の要素で、むしろ大事なのは、予測と外れることが大前提であり、計画がうまくいかないことが大前提とよく知っていることです。

そして、そんな時にもってるもの全部使って判断行動していく。

ほとんどの場合、緊急なのは全く考える時間がないです。

その瞬間、迷うことなく何かを決めていく。

決めるにあたっての、経験や知識やあとはもう、その時察知できる感覚。

それがまったく音楽というナマモノ。

そして舞台というやり直しのきかないところに、必要な要素だということ。

誰かにむけて言い訳することができない世界。

自分でこうだと判断したら自分を信じること。

アザラシ狩りに出ることにしましょう。

その家には白い狼みたいな犬がいました。

家の中に入れてもらえることはなく、鎖に繋がれずに、家の玄関前に寝ていました。

いかにも賢そうな顔で、アザラシ狩りに出る朝、すぐにこれから何が始まるかわかった顔をして私達についてボートに乗り込みました。

支流から海へ。

その途中仲間のボートが四艘ほど合流してきます。

波は一切なく、

透明で滑らかな布の上を切り裂いて進んでいくようでした。

途中ガンのような群れが頭上を飛んでいきます。

するとエスキモーの一人がその鳴き声を真似ました。

すると鳥が鳴き出し、そこへ向かって鉄砲を撃ちましたがあたりませんでした。

そのあとしばらくして、その波のない海の中で、どのように発見したのか、アザラシがいました。

海の上にひょっこり顔を出してこちらを見ます。

かわいくて思わずドキッとしました。

ボートはお互い邪魔することなく、間隔を保ちながらアザラシを追い詰めていきます。

ボートの先端では槍を構えて乗り出しています。

一人が槍を投げる。

すると他のボートからも一斉に槍が飛びます。

でもあたりませんでした。

それを数回繰り返し、とうとう槍がアザラシにあたりました。

空気の入った丸い球体の浮き袋のついた槍でとどめをさすと、もう潜れません。

ボートにあげられ、近くの島へ。

そして小型のナイフで手際よく解体されます。

何か順番や細かい儀式があるようでした。

内臓をそれぞれ焼いて、心臓や、肝臓、そして生肉など、色々な部位を食べさせてもらいました。

肝臓は海の香りがしました。

最初、どこか祈るような気持ちで、アザラシに槍が当たらなければいいなと思いました。

けれどもボートはボート自体が起こす波で揺れ、その波を越えていくたびに、まるで馬に乗っているようで、私はだんだん興奮してくるのが自分でわかりました。

あたったらどうしようという緊張感と、どのように追い詰めていくのかというスリルと、素早く波を越えて走るボートと、遣り手の息遣いなど、自分の中にも知らない本能があるような気がしました。

こんなふうにして、命をいただく機会を経験できたことは、この長い旅の最後の日にとても意義があるような気がしました。

これ以来、私は自分の中に矛盾をかかえていることを、むしろ当然だと思うようになり、白黒はっきりさせようとか、他人にたいしても、こうあるべきだとか、あまり思わなくなったように思います。

  

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