2020
2020
この場所を守ってる人たち。
日々の生活を積み重ねているだけというが、場所を守ってる人たちというのはいる。
山の棚田はそのちょうど入り口に廣田さん夫婦が住んでいる。
面白いくらい、廣田さんの家の前で車を降りたら、野原を通過して大きな木立の森の奥に続く小さな細い山道の入り口があり、そこからしかその棚田へはいけない。
まるで門なんだけど、門番でもある廣田さん夫妻はいつも暖かい笑顔で迎えてくれる。
それは棚田に遊びにきたどんな人でも。
でもその棚田は廣田さん夫妻のものではない。
廣田さんの家の少し斜向かいに茂さんの家があって、その茂さんの棚田だ。
棚田の作業は茂さん一人でおじいさんが開墾した山を中に入ったちいさな谷底にある。
棚田というと、てっきり斜面沿いに細長くあると思っているので、誰でもはじめてきたときにはちょっと驚く。
どこまでいっても木立の中で、この先本当に棚田があるのかな?と少し不安になるくらいの頃に、急に視界が開けて、谷底に棚田がひろがっているのが見える。
こちらからするとかなり下を覗く感じになる。
ぐるりとつづら折りに坂を下ると、棚田に入れる。
この急斜面を降りれなければ、それでも山道の上から充分に棚田が見渡せる。
するとちょうどその棚田の真ん中に島のように石舞台がある。
少し芝が生えていて、ねむの木が立っている。
山にぐるりと囲まれた小さな谷底。
ここに茂さんのおじいさんは一人で棚田を開いた。
茂さんももう孫のいる歳だが、今年こそ終わりにしようと思いながら、毎年廣田さん夫妻におだてられてやめずにいる。
ひとんちの野原とひとんちの棚田でコンサートを主催する廣田家。
私と廣田家との出会いは、廣田さんが一人で木工制作するヒロクラフトが日本橋のデパートで出店した時にそのお客さんが廣田さんのファンになり、棚田のファンである廣田さんに誘われて馬頭の棚田へ遊びに来た事による。
馬頭とは栃木県の(現在は那珂川町)馬頭町と呼ばれる日本の里山百景に選ばれた地でもある。
そのお客さんは私の弾く馬頭琴のお客さんでもあった。
馬頭で馬頭琴。
というオヤジギャグからはじまった。
棚田で演奏会したいと聞いた時、田んぼには水がある。
畦道はせまい。
お客さんも私もどこに陣取るのか?
というハテナがいっぱいになったが、とにかく、下見だ!
楽器を持って馳せ参じる。
まずは野原で弾いてみる。
充分な広さ。
道路からの良いアクセス。
景観も草原のようで良い。
音も意外と響いている。
その音を聞いていた茂さんは、これならできるなと思ったらしい。
まあでも棚田もぜひ。ということで、木立の中へ山道を行く。
ここからまた歩くのか。
お客さんはついてくるだろうか?
とか思いながらもわくわくしてくる。
同時にこの先本当に棚田がひろがるような空間があるのか?
どんどん山奥に続くような細い木立の中の山道だ。
不安になるくらいの頃に、視界が開ける。
そしてまず目に入るのは小さな棚田が広がる中に浮かんでいる小島のような石舞台。
そしてそこにたってみる。
弾いてみる。
不思議な感覚だった。
野外だから反響はないのに、細く長く音が散ることなく線のようになってどこまでも伸びていく感じがした。
面白いな。
ちょうどそこには自然の音を撮ることを生業とする大学の先生が来ていて、山の上で撮った音を聴かせてくれた。
鳥肌がたった。
これ本当に山の上から撮った音?
ここならできる。
演奏会をしたい。
廣田さん夫妻も茂さんも、地域の人たちをぜひこのコンサートに招待したいと思っていたので、特に腰の曲がったおばあちゃん達。
流石にこの斜面は降りれないし、野原から遠い。
おばあちゃん達には野原で聴いてもらって、元気な人たちはその後移動して、棚田で聞いてもらうようにしたいという。
私は、棚田で音を出してしまったら、野原の音には比べ物にならない。これはぜひ棚田でみんなに聞いてもらいたいと思ったが、おばあちゃん達来れないなら仕方ないなと思った。
音を聞いて、みんなやれると思ってから、稲刈りの後の10月がいいだろうとおおよそ決まり、
そこから廣田さん夫妻の戦いがはじまった。 地域の人たちを招待するなら地域外の人たちにここまで来てもらって、料金を払ってもらわないとならない。
どうやって宣伝して、どうやって集客したら良いのか。
企画というのはいくらでもできる。
演奏したら良さそうな場所も沢山あるし、楽しいし、アイディアは湧いてくる。
たが、採算を考えなければいけない。
すると集客をしなければならないのだ。
廣田さん夫妻は、息子さんの話を聞く分には夫婦の間で準備、話し合いする中で何回か夫婦ケンカしたらしい。
そして、胃が痛くなり、私が下見に行ったのが5月だったので、本番の10月半ばまで、数ヶ月、お金を払って遠いここまで来てもらって、失礼のない様に何が足りないか、どうしたらここの良さを味わってコンサート以外にも、この場所を楽しんでもらえるか、アイディアと工夫と、その準備に追われ、そもそも東京から移住して来たこの一家は、地域の人たちにどうしたら迷惑をかけずに、なおかつこの演奏会に参加してもらえるか、手伝ってもらえるか。
本当に振り返ると、すごい事だなと思う。
廣田さん夫妻はこの梅平(馬頭の中でも棚田のある廣田さん夫妻が住んでいる地域)の地の人たちは招待したいと思っていた。
招待するのは主におじいちゃんとおばあちゃん。
動ける人たちは無理のない範囲でスタッフとして参加してもらうには、どのくらいの気づかいと、地域の人たちとの信頼関係があった事だろうか。
それは廣田さん夫妻の努力だけではなく、梅平の人たちが、移住してきたばかりの頃から、廣田さんに声をかけて、とても良くしてくれたんだそうだ。
そういう意味でもこの演奏会があるのは、色んな奇跡的な要素が詰まっていたのだ。
都会に住む人たちにこの村の良さと、棚田の素晴らしさを感じて欲しい。
そして楽しんでもらうことによって、茂さんの棚田を続けるモチベーションにつなげたい。
廣田夫妻にはそんなもくろみもあったようだ。
移住してきた廣田さん一家と、それを受け入れた梅平の人たち。
四季の里山の暮らしの中で日々行われる里山の仕事。
それがこの景観を作っていて、里山の生き物達をも支えている。
自然というのはほっておくと、すぐに荒れる。
人の手が必要ないのは、原生林と呼ばれるような長い時間かけて奇跡的にバランスのとれている大自然だ。
里山は長い時間かけて人の暮らしの手が入ることで保たれている生態系なのだ。
茂さんの棚田は耕作しなくなったら、あっという間に藪におおわれて、今ここに流れている水の流れも空気の流れも滞ってしまうだろう。
棚田を維持するのは田んぼを耕すだけではなく、その周りの林や森の手入れもする事だ。
そうすることで空気の流れができ、水の流れが生まれる。
このあたりの関連は私も最近関わっているアースマンシップという団体のケアテイカーという活動を通して、里山の沢や森を手入れしてみて空気の流れが復活し、それに引き上げられる形で土の中の水の流れが復活するのを体験した。
そうしてまた再び棚田に来ると、田んぼを耕す茂さんの営みが、沢山の命もまた育んでいるんだと実感できる。
そして私はそこで音を奏で、そんなことに思いを馳せ、風や光や虫や鳥や草花のささやくような気配を楽しむ。
時には曲に合わせたかのように風がビュオーと吹く時もある。
ああ、これが音楽だなと思う。
それで第一回目のコンサートをようやく迎えたその日、私は一部を野原で。
そして皆さんと移動して2部を山の棚田で。
半年胃を痛め続けた廣田さんのかいあり、たくさんのお客さん。
野原で弾いた音は吸われてしまい、これは大変だと、私は必死になって全曲弾いた。
そして棚田で弾くと、こんなに違うのかというくらい音が伸びる。
美炎さんは一部の時手を抜いて弾いてたと言われたくらい違う(実際には一部は必死だった)
そしてなんと、おばあちゃん達は手押し車をひいて山の棚田へ一緒に移動していたのである。笑
もちろん急な坂は降りれないので、山の上から棚田を見下ろすところに座って。
以降、野原で弾くことはなくなり、山の上は梅平のおばあちゃん優先席という小さな看板が立てられることとなった。
この梅平の人たちの日々の暮らし、茂さんの棚田での作業、四季の風景、コンサートの舞台裏。
そして自然と人の共演であるコンサート。
それらを全部みたい。
はい。
ドキュメンタリー映像作品になります。
すでにプロジェクトは動きだしていて、映画監督の纐纈あやさんとカメラマンの石井和彦さん夫妻が去年の棚田コンサートの前から折々にこの地を訪ねて、撮ってくれています。
今年は棚田コンサート10回目。
田おこしからはじまり、稲刈りの後、この棚田コンサートが終わってようやく米作業が終わりになるんだよと言っている茂さん。
茂さんの目線からはどんな風に見えているのだろうか。
私が棚田の石舞台から見ている景色と、どう違うのだろう。
ふと、山の斜面の遠くの上の方。
一番後ろから全体を見渡して、腕組みして立っている茂さんの姿が見える時がある。
棚田で毎年一人で作業していて、ふと空を見上げて、こんな素晴らしい景色を俺一人だけ楽しんでいいのかなあと毎回思っていた。
コンサートのたびに、ここにこんなにたくさんの人達がいるのが、不思議でしょうがないんだ。
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里守人と馬頭琴
ドキュメンタリー映像プロジェクトは皆さまの応援をお待ちしています。
来年の春に完成予定のこの作品をDVDにしてお渡し。
エンドロールの名前の記載など、幾つかのリターンがあります。
ぜひ作品を見ていただきたい。
どうぞよろしくお願いします。
2019
映画監督の纐纈あやさんと出会ったのは3年前くらい。
アースマンシップの岡田さんの紹介で、すごく面白いの!会わせたい!と前から言っていた。
あやさんの方はやはり岡田さんから、棚田コンサートすごくいいから絶対行ってみて。
と言われていた。
あやさんとカメラマンの石井和彦さん夫妻がそうして棚田コンサートに来てくれたのは、一昨年のよりによって初雨の開催となった棚田コンサートだった。
演奏しはじめた途端に降り出した雨。
皆さん傘をさしてじっと聞き入っている。
ともすると申し訳なさに心が占領されそうになるのを、そんな気持ちで弾くわけにいかないと集中する繰り返しの中だった。
あやさんからの感想は、自然の中に響く馬頭琴はなぜあんなに感動するのだろう。
雨音と共に聴く馬頭琴の音色は格別だった。
という、雨音という効果も何かしら音楽会の中で響くものがあるんだという意外なものだった。
先月に取材を受けに行った棚田は小雨が降っていた。
なんとも幻想的で、確かに悪くないと思えた。
まあつまり、この山の棚田はそれくらい異空間、魔法が働くかのような場所なのだ。
風光明美な棚田は棚田百選があるように全国あちこちにあるであろう。
私もいくつか知っているし、海が望めたり、それこそ階段上に斜面で広がる棚田の迫力や、何とも言えない景色はそこに立つだけで感動する。
それとはまたどこか違うこの山の棚田はまず、規模がとても小さい。
棚田の持ち主茂さんの本当にプライベートな空間で、どうしてこの山の中のこの小さな谷底によく残っていたなと色んな意味で不思議に思う。
山の入り口からして、プライベート感満載で、村の人も数十年、同じ地区に暮らしていて通った事がないような山道なのだ。
茂さんと、棚田を開墾した茂さんのお祖父さんだけが、通ってきたような道。
谷底の小さな棚田から見上げた空はやっぱり切り取られた小さな丸いここだけの空だ。
でもここが特別なのは、その棚田の真ん中に石舞台があること。
そしてそこで音を出すと、天然の音楽ホールになっていて、音が山の斜面を伝って上まで届く。
ここでしか聞けない美しい音なのだ。
弾いていると突然生き物たちが反応する。
風が反応する。
光が反応する。
みたこともない自然の演出がくりひろげられる天然の音楽ホール。
このまま死んでもいい。って感想がアンケートででるくらい、魔法がかかる異空間。
これが異空間なのか、どこにでもある里山の一部なのか。
茂さんは毎年誰も訪れることのないこの棚田で一人米作りをしてきた。
そして、ふと空を見上げて、こんな素晴らしい景色を眺められるのはおれ一人なんだなーと、味わっていたという。
そこに、この棚田の魅力に気づいて通うようになった、お隣に移住してきたヒロクラフトの廣田さん家族。
その縁でここに一年に一回。
お米の収穫の後にこの音楽会が開かれるようになり、茂さんの米作りの一年はこのコンサートが終わってやっと終わる。
いつも山の上で腕組みしながら立ち、コンサート全体を見ている茂さんの姿。
ここにこんなに人が沢山いるのが不思議でしょうがない。
みんなが喜んでくれるのが嬉しい。
この棚田のある梅平地区の廣田さんが名付けた里守人の方々もまた、このコンサートを大切に想い、日頃から地域の整備を気にかけている。
コンサート当日もそれぞれ、駐車場係りなどをこなしてくれて、お客さんがどんな満足な顔で帰ったか、なんと言って感動してくれたかを、私にとても嬉しそうに報告してくれる。
そしてその地域の人たちの暖かさを感じたお客さん達がアンケートでそれを伝えてくれる。
私の見えないところで沢山の瞬間がこのコンサートを作っている事が実感できる。
そんなことの全部が映像として、ドキュメンタリー映像作品として残したい。
ここ数年ずっと思い描いていた。
このコンサートに来たいけれど
来ることができない人達もいる。
お客さんもコンサートは見れるけど、その舞台裏は知らない。
そんな期待にも応えたい。
でも私の夢は妄想のままだった。
今年の夏、ふとFacebookで廣田さんが、もう一つの美術館という棚田からすぐの木造校舎を美術館にしている素敵な美術館で纐纈あやさんの「ある精肉店のはなし」の上映会と監督のトークショーがある。
と、いう案内をみて、行かなきゃ!!
となる。
廣田さんに言うと、それなら監督と同じ宿を予約しておきますか?という事でお願いした。
上映後にあやさんと宿で映画のこと、監督になった馴れ初めなど、部屋飲みしながら語り明かし、次の日の早朝にはあやさんと棚田へ行き、温泉で棚田の魅力を語り、気づいたら口から、棚田のドキュメンタリー映像を撮ってくれませんか?
と聞いていた。
行かなきゃ!
と思った時には、まだ頼んでみようなどとは思っていなかった。
映画も見ているし、あやさんにも何度か会っているのに、とにかく行かなきゃいけないと思った。
しかし棚田へ向かう車の中で、そうか、あやさに頼めたらすごくいいなと思い、なぜ自分はそんな事も考えずに行かなきゃ!!と決めたのか、相変わらず気づいたら走ってる自分の性格に可笑しくなる。
廣田さんはと言えば、実はそうなることを何処かで予感して、監督と同じ宿を予約してくれていた。
しかも面白い事は、次の日監督が帰った後で、夕方からこの梅平地区の寄り合いがある。
今回参加できるのが、棚田コンサートのコアメンバーのみ。
ということで、それは私も絶対参加しなければと、あやさんから言われていた通り、このコアな里守人の映像製作の賛同を得られなければこの話は成り立たない。
彼らが重要な登場人物でもあるからだ。
用意されていたとしか思えないこの流れに一人で興奮しながら、いい感じに皆さん酔ってきたところで、話を切り出す。
昨日、映画を見に来た茂さんは、待って、でも俺はあの映画の精肉店の人達のように、何も特別な話は何にもないよ。
あの作品はさ、社会問題なんかもちゃんと絡んでいて、ドキュメンタリーとして深みのあるものになっているけど、俺は取り上げられるような事は何にもないから、と言い出すので、廣田さんと、いいのそれで。
そんな事は誰も期待してなからと、なだめる。(?!)
梅平地区の代表のようなしげはるさんが、とにかく一番喜んでくれて、この梅平という地区がなんらかの形で残ってくれるなら、そんな有難い話はないと、何度も何度も話していた。
梅平地区、主催の廣田さん家族、棚田コンサート出演者、第一回目から訪れてくれているスタッフやお客さん。
いつかこのコンサートに行きたいなと思っていてくれる人、みんなの想いが詰まった作品になる。
私ができる事は本当に限られていて、その小さな範囲の事を、やっぱりやるしかない。
ただ、この映像作品を誰よりも見たいし、沢山の人に見てもらいたい。
それだけは確かで、この作品を見てみたいと思う方がいたら、ぜひ応援をよろしくお願いします。
2019
その空間は外から見ただけじゃ分からない。
美炎さんにぴったりな場所があるのよ〜
友人のaya さんに連れられて来たのは住宅地と畑が混在しているどこにでもあるような風景。
大きなビニールハウスがあるが、農家のビニールハウスらしい外観。
入り口がちょっと緑のトンネルになってて、あら?なんか素敵だな。
入ってみたらちょっとした異空間。
セラヴィオーナーののりこさんがあっけらかんとした笑顔で迎えてくれた。
aya さんは既にのりこさんを私の年始のプラネタリウムライブに連れてきていて、なんか一緒にできたら素敵だと思うの〜!と勝手に妄想が膨らんでいる様子。
しかしaya さんのこの行動力に感謝せずにはいられない。
すっかりこの空間に魅せられ、ここでライブしたいです。
と、スケジュールをさっさと出す。
今度はaya さんとのりこさんが、びっくり。
こんなに早く決まるなんてね。と。
コンサートが始まる夕暮れの後、ふと弾きだして呼吸すると植物たちが吐き出した息がむせるほどに香る。
手を伸ばして触ってくるほどの植物たちに囲まれて、包まれて、幸せな時間。
後から友人達が撮ってくれた写真をみて、私とこの場所がぴったりハマっている気がして、これは何か作りたいなと妄想がはじまった。
映像を撮りたい。
ふと春に出会った撮影チームomegane の菅林春奈さんを思い出す。
キャロットパーティーという人参の農家さんとフランス料理のコラボでの演奏だったのだが、その映像製作をしていて、私の演奏の映像もあり、見ていて柔らかいイメージがいいなと思ったのだった。
映像を撮るのはいいけど、それをどうするんだ。
という話で、プロモーションビデオなら、CDを発売するのはどうだろう。と脳内妄想が続く。
白鳥love songのCDが完売して、評判のいいCDだったので、増版もありだったが、今のトリオメンバーで撮り直したいという気持ちが強かったし、それなら新曲もまた溜まってきたので、新曲を集めたCDとリニューアルのCDと二作作るのはどうだろうか。
ちょうどアイルランドとアリゾナで撮ったいい写真があるので、それを使ってジャケットを作ろうと思っていた。
こんな素敵な場所でとても素敵な映像が撮れるに違いないのに、私の毎回、それ化粧してるの?と言われてしまう化粧の技術と、単純な編み込みしかできないヘアスタイルと、それは残念すぎるなーと思うのだった。
しかし、美JAPONの小林栄子さんの新年会で、ミス日本だの、ミス着物日本だの集まるような目にも鮮やかな新年会なのだが、メイクのトップの方々と知り合えた場所でもあり、思い切って何かの時にはお願いします。
と声をかけた甲斐があった。
快く引き受けてくれたのはAsuka Takei (atelier LumIas)さん。
私の事はどこか別の人から以前に話を聞いたことがあると聞いてこちらもびっくり。
縁のある人とは何かしらの糸が繋がっていたのだなと思う。
AsukaさんはVisionary Award 2018世界大会1位の実績の持ち主。
ロンドンからの速報は私も見ていたので、すごい方だと感心していたのだが、まさかその方にやっていただけるとは。
撮影当日はAssistantのkeikoyyssさんも来て、ピアノの竹井さんとドラムの前田さんもシンプルヘアメイクをしてもらう。
セラヴィののりこさんには、ライブの時にもささっとチームtamiserの森田さんと共に足元に植物をあしらってくれて、それがとても良かったので、今回の撮影での舞台アレンジと、髪にあしらう植物もお願いした。
とにかくAsuka さんには、妖精風でお願いします!
と。
セラヴィの空間には絶対妖精がいるだろうと、アイルランドを旅した私は思う。
だいたい、ドンくんという大きなカエルがここには住み着いているらしいのだが、そんな気配がするところなのだ。
衣装はというと、最近好きでよく買っている野口多鶴子さんの、去年棚田コンサートで着た衣装のスカートを使うことに。
トップを何にするか持ち合わせのものからあれこれ試したがどうもしっくりこない。
以前にギャリーsfkで買った、薄い藍染のストールをぐるぐる巻いてトップスにした。
それをやはり以前コンサートしたギャラリー夢心房さんのところで買ったインドの手織りのストールを合わせる。
布が好きで、気に入った布をつい買ってしまうのだけど、ストールってなかなか使いこなせない。
特に演奏で使おうと思うと結構動くので巻くのに工夫がいる。
でも今回のセラヴィの場所ではこれらの天然素材の薄い布達が(スカートも含めて)ビニールハウス越しと、植物達との昼間のコラボにはやはりぴったりくるのではないかと想像した。
さてせっかく撮るなら二曲は撮りたいと欲張る私。
代表作の風と空のうた。
それはもちろん昼間の白のイメージの代表として。
二作目のCDの代表は、アイルランドで製作したドネゴールの夕陽にしよう。
ちょうど光のイメージも夕方から夜。
二作のイメージの差を昼と夜にしようと決まる。
夜とはいっても昼が白のイメージなら、夜は色濃い緑のイメージにしよう。
ということで、二作のCDの選曲も、
白→前作の白鳥love songからの選曲→白鳥も白→あと昼間の爽やかなイメージのもの→風
連想ゲームのように選曲しました。
もう一作の夜の色濃い緑のイメージの選曲は
緑→夕暮れ→グリーン→情熱→厚み
選曲も二作とも割と対比された感じで集めてみました。
ここまでくると、白と緑、昼と夜の対比のイメージで、ジャケット撮影もしてもらおうという話になり、毎回頼むならこの人!という中島すみれさんに今回もジャケットのデザインを頼む。
夜の衣装はこの前このセラヴィでライブした時に思いついてはじめて着てみたグリーン。
そのグリーンの下に昔買った別のグリーンのワンピースを合わせる。
アクセサリーは金沢で以前買ったカワセミの羽のネックレス。
とにかく今回は衣装は寄せ集めだが、減価償却とはこの事だ。
撮影の時も、撮影のomegane さんにも、ヘアメイクのasuka さんにも、tamiserののりこさんと森田さんにも、昼と夜の対比のイメージで撮りたい事を伝え、
準備してくれた事に加えて、後は現場でその場でのアレンジ。
やり直しのきかないその1日限りの特別な時間。
昼間の時間と夜の時間。
限られた中での皆さんの動きは素晴らしかった。
出来上がってみると、あとはジャケットデザインのすみれさんとジャケットのタイトルやテーマをどうするか?
というやり取りの中でタイトルとサブタイトルを分けようと。
今回は珍しくすみれさんが、金箔の箔押しをしたい!ということと、紙ジャケットと、印刷の質感にこだわり(いや、いつも予算の関係で却下する事もあった。。)
結構強く推してくるので、
わかった!とおれた。。(財布の紐自己担当)
なので、今回の二作とも、イギリス湖水地方を旅した時の曲と、アイルランドを旅した時の曲の新曲があったので、その地方の言葉もタイトルにいいかなと思っていると、すみれさんが奇跡的に、こんなのがあった!と送ってきたのが、北欧神話の昼の神と夜の神。
それが白い馬と黒い馬に乗っている。
その白い馬と黒い馬の名前があり、それぞれの原語でのタイトルに英語の名前も明記して、サブタイトルをPVに使う曲名にした。
この白い馬と黒い馬、昼と夜の神に関しては、またいずれ別の機会にそこにフューチャーして作品を作りたいと目論んでいる。
まずはYouTubeにて一作目の風と空のうたのPVを投稿してるので、そちらをぜひご覧ください。
様々なセンスと技術、チームワークからなる作品です。
さて。
当日はこれらの製作を作るきっかけを作った張本人のaya さんが美味しいものアンテナを発揮してaya さんの友人にお昼を用意してもらいました。
これがまたどれもほっぺた落ちそうなくらい美味しくて、こういう時の美味しいものはテンション上がるのでゆっくり時間は取れなくても大事だと思う私。
しかしそこまで手配する余裕がないので、aya さんの頑張りに本当に感謝でした。
美味しい正体は。
こちら。
Koya さん。
オープンしてる日が限られていて、ちょうどオープンしてないタイミングでしたが、快く引き受けてくれました。
彼女はセラヴィでのライブにも来てくれていました。
動きながら手に取れるようにと、ゴミが少なくて済むようにというリクエストに最大限応えてくれました。
aya さんも娘さんと一緒にお菓子を焼いて来てくれました。
ありがとうございます!
さて、今回の製作での写真をあれこれ。
撮影チームomegane さん。
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ヘアメイクのAsuka Takei さん
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花かんむり、舞台植物アレンジの撮影地C’est la vie.
アレンジはtamiserののりこさんと森田さん。
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ホームページからのCD販売はもう少し時間を頂戴します。
まずは10月各地でのコンサートでの先行販売です。
10月5日、6日仙台クラシックフェスティバル(こちらはチケット完売してます)
10月10日八街小谷流ドギーズアイランドでの交流会
10月12日ワールドフェスタ2019
11:30〜12:00山下公園
10月20日棚田コンサート
栃木県那珂川町
10月26日三鷹ギャラリーカパリスンライブ西美紀展示会
10月27日南房総ギャラリーsfk
です。
まず一作目のCDの紹介です。
☘️CD発売☘️
Gladr
風と空のうた
shining mane
Gladr(グラズ)は英語でshining mane.
輝くたてがみという意味です。
北欧神話の昼を意味する(夜の女神の)息子が乗るのが白い馬のGladr(frost mane)
CD「白鳥love song」が完売し、新しい録音でのリニューアルCDとして新曲も加えました。
1.小さな羽
2.アメージンググレイス
3.風の馬
4.風と空のうた
5.龍は嵐を呼んで天に昇る
6.風語り
7.白鳥~モンゴル民謡
馬頭琴・歌 美炎
ピアノ 竹井美子
ドラム・パーカッション 前田仁
1.小さな羽 作曲 美炎 編曲 竹井美子
☘️イギリス湖水地方の散策の途中にできた曲です。
2.アメージンググレイス 作曲者不詳 作詞 ジョン・ニュートン
☘️歌と馬頭琴バージョン
3.風の馬 作曲 美炎 編曲 竹井美子
☘️ドラム前田仁による新バージョン
4.風と空のうた 作曲 美炎 編曲 則岡徹
☘️パーカッションも入れたバージョン
5.龍は嵐を呼んで天に昇る 作曲 美炎 編曲 竹井美子
☘️ドラム前田仁による新バージョン
6.風語り 作曲 美炎 編曲 竹井美子
☘️100枚限定販売の「風の国~仁」からの録音
7.白鳥 モンゴル民謡
☘️歌と馬頭琴のバージョン
ジャケット撮影
「omegane」
Recording Engineer 森重悟志
Hair make up
Asuka Takei (atelier LumIas)
Assistant
keikoyyss
撮影地C’est la vie.
アレンジはtamiser
2019
他には誰も渡らない踏切を渡って熊笹が迫る白樺の林の中の砂利道をうねうねと抜けて、たどり着いた牧場。
牧場とは言っても、見慣れた広々とした牧場というよりは、小さな丘や小川や林に囲まれたプライベートな空間。
そして朽ちていく途中のような山小屋。
鹿の角と木彫りのクマの顔が戸口にかかっている。
中を覗くと沢山の木彫りのクマ。
一年前に90歳で亡くなったおじいさんの牧場。
元寒立馬のフウ、シバ、ハルを連れてこの北海道白老町に移住した菊地さんがこの牧場を借りて馬達を放している。
湧き水が勢いよく吹き出している。
小屋の中には菊地さんの馬の鞍もあり、ここに住み着いている黒猫が屋根裏から顔を出している。
もう誰も用が無くなってしまったような牧場に、菊地さんはまるで呼ばれたかのように繋がって、それは三頭の馬がこの素敵な地に導いてくれたような気さえする。
私達もまたこの三頭に惹きつけられて、ここにきた。
おじいさんの沢山の木彫りの人形も捨てられてしまう憂き目に遭うところだったのを
菊地さんが今年オープンさせたゲストハウスのあちこちに飾られている。
久しぶりに見る寒立馬。
大きいなぁ。やっぱり。
ふと日が傾いてきて柔らかい光になったので、シバと写真を撮ってもらう。
楽器を持ってシバの周りをウロウロしているとシバも楽器とその音に興味を示したようだ。
絡んでるうちに心が喜びに満たされて、なんともいえず癒されていくのが分かる。
馬に癒されるってこういう事か。
今までは好き!嬉しい!って気持ちが先にたって、そんな気持ちにあえて気づかなかったのかな。
心がどうも疲れていたようだと気づく。
私、馬にあえてよかった。
北の大地へ。
船に揺られて。
旅の予感にわくわくしながら、でもお腹はしくしく。
そう。千葉住みのわたくし。
この台風の停電で冷蔵庫がやられ、実家の母は腹が強く、ぬるい冷蔵庫の中の牛乳を使ったフレンチトーストを作ってくれたのが、どうもそれにあたったようだ。
千葉の災害に悲しみと怒りが私のお腹を渦巻いてもいたようで。
それで波のようにお腹がキューとなるのに合わせて船の上でも、キューとなりながらも、とことん寝て。
起きたら北海道。
思ったより寒くないというかむしろ暑い。
さっそく白老のゲストハウスHaku Hostel &cafe barへ。
三年ほど前に遠野に呼ばれてコンサートした時、お世話になった、元寒立馬のフウ、ハル、シバのお父さん。
菊地さん。
馬を連れて北海道に移住。
その様子を写真で見ていて、いつかいきたいな〜と夢みていた。
その日1日、次の日もうっとりと優しい目と顔を思い出していた。
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白老のゲストハウスHaku hostel&cafe +bar
フウ、ハル、シバの三頭の馬の牧場の絵が描かれたお部屋に宿泊。
シバ。
音を出したらとても興味を示す。
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牧場にあるおじいさんの小屋。
どこも絵になる。
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上は取り壊した家の二階から沢山出てきたおじいさんの木彫りの人形と馬の鞍。
下はその一部をゲストハウスのcafeで展示中。
シバと私。
菊池さんが撮ってくれたもの。
日高へ。
日高町の高校に携わる高橋さんが今回北海道へと呼んでくれた。
栃木県那珂川町の山の棚田コンサートの主催の廣田さん夫妻と旧知の仲で、廣田さんを訪ねた折に、棚田コンサートのポスターを街中で見たのがはじまり。
それならぜひ今回のツアーに廣田さん夫妻も誘いたかった。
以前遠野でのコンサートの時も車を走らせ来てくれた。
素敵な景色に出会うときに、自分の好きな人達と一緒だと感動が膨らむ。
日高でまず高校生達に事前レクチャーをしてその日は就寝。
次の日の午前中は馬の牧場へ連れて行ってくれるらしかった。
日高は馬産地で競馬馬を産出しているイメージだったので、連れて行ってもらう牧場は広大な敷地に点々と小さく散らばるサラブレッドを想像していたし、なんとなく柵越に近寄ってくるお馬さんとの対面を想像していた。
モンゴルの小柄な馬やら、寒立馬や道産子のような足もお腹も太い馬が好きなので、サラブレッドの神経質そうな、また足が細くて転んだら骨折るんじゃないかとか余計な心配をしてしまう。
ところが車は山道をいく。
最後の坂上がれるかな〜って言いながら。
まだ着かない。
途中で諦めて帰る人がいるみたいですね。って話してる。
最後の坂をぐいーーっと登って着いた。
馬達は厩舎にいない。
32歳だという純潔のアラブ馬のおばあさんがいた。
馬達どこにいるかなーって山の斜面がいくつかあって、どこかに自由に出てるらしい。
まあ朝出して夕方戻る。
柵がないんだよね。
広大すぎて作るの諦めたらしいの。
朝あっちにいたからあっちだと思うと言われて斜面を登っていく。
しばらく登るとちらほらいる。
小柄でカーブが美しくてしっぽがクイって上に上がってる。
これは、これは大好きな映画ベンハーのアラブ馬ではないか。
こんな夢見たいな美しい馬が目の前に沢山いてどうしよう。どうしよう。
そしたらここのお父さんが、馬達が走るところを見せてあげると言って追い立て始めた。
馬達はもうかえるの?
え?なんで?
って感じだったが、やがて勢いを増して山の下ではかなり迫力ある映像が撮れた。
自由にしている馬達。 自由に乗らせてくれる牧場。
もう絶対にここに乗りにくる。 そう何度も思う。
馬貯金しなきゃ。
何月がいいかな。とか頭の中はそればかり。
それでもうっとりと馬欲を満たして、夜のコンサート。
その井上牧場のお父さんお母さん、スタッフの人達も一番前で聞いてくれている。
いろんな曲の中で、馬の美しさ優しさ、力強さが溢れてくるのを感じる。
北海道に着いたばかりの廣田さん家族も、早速この日高へ呼んでくれた高橋さんに連れられてアラブ馬の牧場へ行ってきたようだ。
そして、皆もう厩舎に戻ってきていたので、明日の朝5時に来たら馬たちが一斉に山に駆けていくのが見れるよと言われて、行くというので即座に私も行きます!と。
前の晩はわくわくしてなかなか寝られないし、次の日の朝は4時には目がさめるし、遠足に行くのを楽しみにしすぎる子供のような状態。
この時期の山の上の気候は寒い。
なるべく着込んで出る。
廣田さん達が宿に迎えに来てくれてレンタカーに乗り合わせて向かう。
井上牧場のお父さんが、昨日のコンサートありがとうございました。
あの音は一生忘れません。
と言ってくれて、ああまたもや馬好きの人と音楽を通して通じ合えた喜びを噛みしめる。
(馬ばか)
馬達は厩舎を出て、両サイドの山、どちらへも行ける。
ところが毎日必ず昨日と違う方向へ行くという。
昨日の疾走シーンを思い出して、わくわくしながら馬達を待つ。
が、ちらほら出てきた馬達は、あら?今日は誰かいるの?
そこに気をとられたのかは分からないが、うろうろと庭先の草を食べはじめてしまい、一向に山へ行かない。
次々出てくる馬達も、その辺の草を熱心に食べはじめてしまう。
お父さんもお母さんも、あらあらあらという感じに、「やま!やま!やま!」と叫びながら山の方へ追い立てる。
その様子が微笑ましくてにやにやしてしまう。
やがて馬達は山を選んだようだ。
一斉に向かいだしたのでついていく。
芦毛の仔馬がなんとも可愛い。
馬がどんなに好きといってもムツゴロウさんではないし、それなりに噛まれたり蹴られたり痛い思いをするのは嫌だし、怖いので、柵がないならば知らない馬には馴れ馴れしく近づかない私だが、
飼い主の人がOKしてくれたら、よしとばかりに近づく。
白老のフウ、シバ、ハルもそうだが、この子達は人を蹴らないよ。
ということで遠慮なくスキンシップ。
それでもこんなに沢山いるから性格も様々だろうしな〜と最初は用心もしていたが、どうやら本当に平気なようだとわかると、とにかくビクビクしないですっかり馬の中に、うっとりとして存在できることが幸せで仕方ない。
悪気がなく服を噛んで引っ張る馬もいるが、そんな様子も全然ないので、そこにいて向こうから近づいてくると、そのまま鼻面でごつんこ。
ごつんこすると、それが挨拶なのかどうなのか、ちょっと見てから別の場所に草を食べに移動する。
寒くなかったら何時間でもいたい。
もうすっかり冷えてしまい、皆で戻ろうと、厩舎へ。
するとお母さんが、美炎さん馬に乗る?
といきなり。
はい!!
と即答。
この時点では、ちょっとその辺ぶらつくだけと思っていた。
でもお父さんとお母さんが話している様子から、けっこう走らせてくれるのかもしれないという期待が膨らむ。
でも本格的に乗るのは、多分モンゴルで2009年に馬旅して以来だから、勘が戻るかちょっと緊張。
でも嬉しくて仕方ない。
さっきまで、いつかここに乗りにくるぞ!っていう思いでいっぱいだったのが、もう叶ってしまった。
続く
32歳のおばあちゃんアラブ馬
井上牧場のお母さん。
エンデュランス120キロの優勝者。
昔トライアスロンの選手。
50代後半で乗馬を始めたらしい。
山の上の白馬
芦毛の仔馬。
歳とると芦毛は白色になる。
長靴の匂いを嗅ぐ馬
牧場の猫。
カナダからのスタッフ。
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おはようの朝
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スティーブに乗って